上海中医薬大付属病院の見学(失眠科)

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上海中医薬大付属病院の見学その2、失眠科についてです。

 

失眠科は名前から分かるように、睡眠障害を扱う科です。日本では心療内科の範囲に相当します。ストレスを原因とした睡眠障害が多いようで、患者の性別は女性に大きく偏っていました。受け入れて下さった胡先生は、ベテランの老中医で、定年迎えた後も病院から依頼を受けて週に2回、診察を続けているそうです。今回の見学では、診察の様子を3時間以上にわたり、見学させていただきました。

 

中国では医師のランクによって診察料が違っていて、老中医と呼ばれる名医にかかると問診だけで1万円もするそうです。その上、老中医は人気があるため、3か月待ちで病院に行っても診察は3分、ということもよくあるそうです。日本で言われる3分診療(3時間待ちの後の3分診察)とは、スケールが違います。。。

 

そんな中胡先生は、初診患者は20~40分、再診患者は10~20分、と時間をかけて診察したのが印象的でした。中医学の診察の手順は、望(患者を観察すること)、聞(話を聞くこと)、問(問診を行うこと)、切(脈や舌を診ること)の4ステップが基本となっています。失眠科では、患者の話をよく聞いて何がストレスの原因となっているのかを分析することが大切なため、聞や問のステップに特に時間をかけます。

 

中国では、患者は医師に対して思っていることをズバズバと言いますし、それは医師側も同じです。最後に診察した患者などは、自分の苦しみを誰も分かってくれないとか、今の薬は絶対自分にあってないとか、自分の症例は特別だからそう簡単には治療できないはずだとか、様々なことを40分も大声でまくし立てていました。しかし胡先生は、半ばあきれつつも、途中で追い返したりせず、辛抱強く患者と対話していました。別の患者の診察時には、患者の夫が病気に理解がないと聞くと、自ら電話して説得していました。時には厳しく説教する場合もあり、「患者の話に耳を傾け、優しくうなずく」というスタイルではありませんでしたが、患者のためを想った親身な診察だと感じました。案内してくれた医師の話によると、胡先生ほどしっかりと話を聞いてくれる医師には、なかなか出会えないそうです。

 

老中医が診察する場合には、助手が処方箋のパソコンへの打ち込みを補助することが多いですが、胡先生は自分ひとりで行っていました。おそらく、診察時間が長いから話しながら打ち込めるのと、処方する薬が20種類以上の生薬を組み合わせたもので複雑だからだと思います。どうやら胡先生オリジナルの処方テンプレート(25種類の生薬を含む)があるようで、これをベースに患者ごとに量や生薬の種類を調整したものを多くの患者に処方していました。生薬の種類が多いと、1週間分でも腕に抱えるくらいの体積になるらしく、女性患者には今度薬を取りに来るときには、夫と一緒に来た方がいいよ、と言っていました。生薬はエキス剤よりもよく効きますが、こういう面は不便ですね。

 

老中医が診察を行う様子をじっくり見ることができ、得るもののある見学でした。次は皮膚科の見学について書こうと思います。