福岡の医学部予備校PMD専任心理士、新田猪三彦先生(公認心理師)が教える医学部受験までの心得
医学部受験が近づいてくるといろいろなことを考えてしまいますね。
試験本番で実力が発揮できるかな・・・、
頭が真っ白になったらどうしよう・・・
何となく心配だな、気持ちだけが焦って、問題にあまり手がつかない・・・
そんな不安な気持ちをもっている人もいれば、
やるだけのことはやったので、もう少し自信がつけば良いな・・・
授業中であれば問題が解けるので、授業中と同じコンディションで緊張せず
本番の試験を受けることができれば合格できると思っている人もいるかもしれません。
今回は医学部入試が近づく中で、受験生からよく受ける質問をQ&Aの形で紹介していきます。
最初から読んでも良いですし、あなたの当てはまるものから読んでも良いです。
医学部受験するときの何かの力になれば幸いです!
Q1
勉強のやる気が続かないので、どうしたらよいですか。
A1
とりあえず、机に向かって座る。そして、簡単な問題を解く。もしくは、軽い運動をして机に座る。
やる気について脳の器官に注目すると、
やる気の発生に著しく関係している脳の器官があり、それを側座核と呼んでいます。
側座核は感情を司る大脳辺縁系の中に存在しています。
側座核を刺激すれば、やる気のスイッチが入ると言われており、その簡単な方法があります。それは、体を動かして作業するということです。
例えば、試験前に机の片付けをする人は、無意識的に体を動かし、やる気のスイッチをいれるため興奮を求めている状態という見方もできます。
作業をすることによってある種の興奮状態が発生するという原理は、精神医学者のエミール・クレペリンによって「作業興奮」と名づけられています。
部屋を片付けたり、軽い運動をしたり、散歩して勉強をするというのも良い方法ですが、少しでも勉強時間を増やしたいという人もいると思うので、
簡単な計算問題を解いたり、音読したり、頭で考えるだけでなく手を動かして字を書いたりするなど身体を動かして下さい!
Q2
睡眠時間を減らして勉強をした方が良いですか。
A2
短眠タイプの人や長眠タイプの人がいるものの、記憶の固定化を考えると、6~7時間ぐらいの睡眠を取るのがよいです。
記憶が睡眠によって強固になることを「レミニセンス現象」と呼ばれています。
レミニエンス現象の研究に関して、シカゴ大学のブラウン博士らによる研究を紹介します。
ブラウン博士らは、大学生207名を募り、バーチャル空間を探索し、敵をできるだけ多く倒すというアクションゲームに挑戦してもらい、その成績を測定しました。
あるグループには、ゲームの練習を朝9時に60分してもらい、夜9時に再度ゲームをやってもらいました。すると平均スコアは50%に低下していました。
別のグループには、ゲームの練習を夜9時に60分してもらい、その後7時間の睡眠を取ってもらい、朝9時に再度ゲームをしてもらいました。
すると平均スコアが約20パーセント上昇することが分かりました。
医学部受験が近づき、少しでも多く勉強時間を確保したいという人もいるかもしれませんが、記憶の定着を考えると、夜寝る前に暗記する科目を勉強して、よく眠るというのも大切です。
Q3
勉強のストレスや不安を克服する方法はありませんか。
A3
論理療法や認知行動療法など様々な方法がありますが、比較的簡単にできるエドモンド・ジェイコブソンの漸進的弛緩法を紹介します。
弛緩法とは、簡単に言うと「筋肉を緩める」ということですが、筋肉を緊張させることはできても、すぐに緩めるというのは難しい。
そこで、一度緊張させて、緩めた感覚を感じるように訓練していき、リラックスした感覚を感じていく方法を考案しました。
L・A・パロウらの漸進的弛緩法による不安尺度とストレス状態を調べる尺度を用い、リラクセーションの程度も10段階で測定したところ、
不安とストレスの数値は下がり、リラクセーションの数値は上昇するという結果が出ています。
その動作を以下に簡単に説明します。
すべて行うのは難しいかもしれませんが、自分ができるところだけでもやってみて下さい!
弛緩法の詳しい手順を載せています。
基本動作
各部位の筋肉に対し、10秒間力を入れ緊張させ、15~20秒間脱力・弛緩する。
身体の主要な筋肉に対し、この基本動作を順番に繰り返し行っていく。
各部位の筋肉が弛緩してくるので、弛緩した状態を体感・体得していく。
1.両手:両腕を伸ばし、掌を上にして、親指を曲げて握り込む。10秒間力を入れ緊張させる。手をゆっくり広げ、膝の上において、15~20秒間脱力・弛緩する。筋肉が弛緩した状態を感じるよう教示する。
2.腕:握った握り拳を肩に近づけ、曲った上腕全体に力を入れ10秒間緊張させ、その後15~20秒間脱力・弛緩する。
※以下、緊張させる部位について記述する。10秒間緊張後、15~20秒間脱力・弛緩する要領は同様である。
3.背中:2と同じ要領で曲げた上腕を外に広げ、肩甲骨を引き付ける。
4.肩:両肩を上げ、首をすぼめるように肩に力を入れる。
5.首:右側に首をひねる。左側も同様に行う。
6.顔:口をすぼめ、顔全体を顔の中心に集めるように力を入れる。
筋肉が弛緩した状態
口がぽかんとした状態
7.腹部:腹部に手をあて、その手を押し返すように力を入れる。
8.足:爪先まで足を伸ばし、足の下側の筋肉を緊張させる。足を伸ばし、爪先を上に曲げ、足の上側の筋肉を緊張させる。
9.全身
1~8までの全身の筋肉を一度に10秒間緊張させる。
力をゆっくりと抜き、15~20秒間脱力・弛緩する。
Q4
暗記や記憶に効果がある食事はありますか。
A4
バランスの良い食事が基本です。
栄養素数だけそれに対応する仮説が立てられため、因果関係を特定するのは難しいです。
栄養学の研究を熱心に行っているオックスフォード大学のゲシュ博士は
「薬のように特定の化合物成分ではなく、栄養素の全体的なバランスが重要だろう」と論文に著しています。
何か特定の食べ物を食べるのではなくバランスの良い食事を取って下さい。
ただ、「精神的に落ち着ける」栄養源の「トリプトファン」に関して少し紹介しておきます。
脳内の神経伝達物質セロトニンが不足すると不安が高まることが知られています。
セロトニンを作る素材が、アミノ酸の一種であるトリプトファンです。
トリプトファンを抜いたアミノ酸飲料ばかり飲んでいた人は、イライラが高まったという研究もあります。
トリプトファンは肉や魚、乳製品、小麦を原料としているものに豊富にふくまれており、バランスの良い食事を取っていれば不足することはありませんが、
コンビニエンスストアやファストフードを利用することが多い人や、スナック菓子やインスタント製品が多い人はトリプトファンが不足し、
イライラや不安感を感じやすくなっている可能性があります。
もしかすると、そのイライラや不安はトリプトファン不足かも・・・
試験勉強、そして、試験当日に落ち着いて取りくめるように日ごろから食生活に気をつけて下さい!
Q5
試験本番での緊張しない方法はありますか。
A5
呼吸に意識を向けて、息を長く吐く!
試験本番でまったく緊張しないというのは難しいかもしれませんが、緊張を減らすことはできます。
その方法に呼吸に意識を向けて、長く吐く方法があります。
身体心理学・健康心理学が専門の早稲田大学名誉教授の春木豊氏らの研究では長く息を吐く練習を練習した後、
血圧などを測り心理テストとして気分評定票のチェックを行いました。
その結果、長く息を吐く練習することにより、血圧が下がり、副交感神経が優位なりました。
つまり、リラックスできたということである。
試験本番では、問題が配られた後、試験が初めの合図をするまでの間、ゆっくりと息を吐くことを意識してほしい。
1、2、3・・・と数字を数えるのも良い方法です。
15くらいまで数えながら吐ければよいですが、10くらいでもかまわないので、ゆっくり長く吐くこと意識して下さい!
(日本心理学会)公認心理師 新田猪三彦
【参考文献】
『心理学 第4版』 編/鹿取廣人 杉本敏夫 鳥居修晃 (東京大学出版)
脳を使うのがうまい人、ヘタな人 ~東大教授の世界一わかる脳の授業~
脳と気持ちの整理術 意欲・実行・解決力を高める (生活人新書)
こころと脳のサイエンス 03 (別冊日経サイエンス 178)