公認心理師、新田猪三彦先生が教える│医学部を目指す受験生を持つ保護者の子どもとの接し方
お子様の話に「最後」まで耳を傾ける
医学部を受験する予備校生の中には受験のストレスや不安を抱えている生徒もいます。
イライラしたり、気分が落ち込んだりする生徒もいます。
そんな生徒の心の変化に早く気づけるのは、親御さんであったり、家族であったりします。
医学部専門予備校では他の生徒もいるので、気を張っている生徒も、家に帰るとリラックスして本心を話すことがあるでしょうし、親と電話している時に、ふと本音がでるということもあるでしょう。
そんな時に、親はどんな姿勢で、子どもの話に耳を傾けたら良いのでしょうか。
親御さんも、子どもを応援したい!悩んでいるんだったら解決してあげたい!
気分が落ち込んでるんだったら元気にしてあげたい!
そんな気持ちになって、ついつい、子どもがまだ話をしているのに、
「悩んだって、しょうがないよ。」
「そんな考えだと、合格できないよ。」
「気持ちの問題だから、勉強して点数が上がれば何とかなるよ。」
などと、アドバイスしがちです。
もちろん、アドバイスが必要な場面もありますが、まずは、子どもの話を最後まで、「うんうん。そうだね。」と同調しながら、耳を傾けましょう。
そして、どうしても自分の意見を伝えたい時は、「I(アイ)メッセージ」で伝えましょう。
伝え方には、I(アイ)メッセージとYou(ユー)メッセージの2つの方法がある!
何か物事を伝える方法には、自分を主語にするI(アイ)メッセージと相手を主語にするYou(ユー)メッセージがあります。
I(アイ)メッセージ、You(ユー)メッセージに関しては、詳細に説明すると長くなるので、子どもに何かを伝える時に、
I(アイ)メッセージは、「私は、〇〇〇と思うよ。」、
You(ユー)メッセージは、「あなたは、〇〇〇すべきだよ。」という2種類の伝え方があると考えてください。
例えば、成績が思うように上がらず悩んでいる子どもに、「私は、他の勉強法を試しても良いと思うよ。」と伝える場合と、「(あなたは、)他の勉強法を試してみるべきだよ。」と伝える場合では受け取る側の印象はどのように変わるでしょうか。
「私は、他の勉強法を試しても良いと思うよ。」という表現だと、聞いている側は、強制されているような印象はないと思いますが、
「(あなたは、)他の勉強法を試してみるべきだよ。」という表現だと、強制されているような感覚になりませんか??
もちろん、場面によっては、「(あなたは、)他の勉強を試してみるべきだよ。」という表現も必要かもしれません。
しかし、受験生の立場になった時に、受験のストレスなどがあるにもかかわらず、強制的な表現で、相手に答えられたら、どんな気持ちになるでしょうか。
子どもは、ただ話を聴いてほしかっただけかもしれないのに、、、。
まずは、共感する気持ちや「うん、うん」と話に耳を傾けること意識し、どうしても何か伝えたいときや、相手がアドバイスを求めている場合だけ、自分の意見を伝える!
伝える時は、押し付けている印象にならないように、I(アイ)メッセージで伝えるようにしましょう。
医学部を目指す受験生にとって「所属感」も大切
親子・家族のコミュニケーションにおいては、子どもが「所属感」を感じているかどうかも重要なことです。
心理学者アブラハム・マズローは、人間の欲求に関して、五段階の欲求階層説を提唱しています。
①生理的な欲求・・・食事、睡眠、排泄など生命維持のための基本的な欲求。 ②安全の欲求・・・危険な環境を回避や、生活の安定・安全を求める欲求。 ③所属と愛情の欲求・・・集団に所属したい欲求や、他者に自分を受けいれてほしいと思う欲求。 ④承認の欲求・・・他者から認められ、自己重要感や自尊感情を満たしたい欲求。 ⑤自己実現の欲求・・・自分の持つ能力や可能性を最大限活用し、理想の自分に近づきたい欲求。 |
人間には5つの欲求があり、一番上の「⑤自己実現の欲求」を満たすためには、「①生理的な欲求」から順番に満たしていく必要があると言われています。
例えば、「③所属と愛情の欲求」が満たされていないと、「④承認の欲求」は現れないと考えられています。
この5つの階層を考えると・・・
生命維持のため、「①生理的な欲求」を人間はまず満たそうとします。
そのため、海外の紛争地帯では、「②安全の欲求」が満たされなくても、戦うことによって、食料を確保するなど、「①生理的な欲求」を満たす行動をします。
日本の医学部を目指す受験生に関しては、①生理的な欲求、②安全の欲求は満たされていると思います。
保護者の皆さんは、③所属と愛情の欲求、④承認の欲求、⑤自己実現の欲求の3つを考える必要があります。
特に、保護者の皆さんは、「③所属と愛情の欲求」に関して意識を向けることが大切です。
私は、学生の面談の中で、「この生徒は、本気で医学部を受験する気持ちがあるのかな!」と思うことがあります。
言葉では、「医学部に合格したい」と言っているものの、本気で取り組んでいる様子を感じない場面があります。
理想の自分に近づきたい欲求である「⑤自己実現の欲求」ではないために、勉強したいという気持ちが湧きあがらず、本気で取り組めないのです。
このような状況は、③所属と愛情の欲求、④承認の欲求が満たされていないために起きることがあります。
受験にとって、予備校という環境はあるものの、高校とは違い、「所属感」が薄くなりがちであり、生徒によっては、浪人中はあまり友達を作らないようにしている生徒もいます。
このような状況の中で、③所属と愛情の欲求を予備校で満たせない生徒もいます。
この時に、所属感を満たせるのが保護者であり、家族なのです。
医学部を目指す受験生に寄り添う保護者が子どもの合格を勝ち取る!
家に帰って、一緒にご飯を食べる、何気ない話をすることだけでも本人とっては、所属感を感じるでしょうし、親元を離れている場合であれば、電話でもメールでも構いませんので、時々、連絡を取り合うということでも構いません。
成績のことなど気になるとは思いますが、子どもの話にただ耳を傾けるという姿勢が大切です。
「③所属と愛情の欲求」が満たされと、自然と自分に自信もつくようになり、「④承認の欲求」も満たされていきます。
家族の間で、「③所属と愛情の欲求」が満たされてないと、予備校の友達とずっとおしゃべりをして、予備校の友達同士で「③所属と愛情の欲求」を満たそうとする行動を取ることがあります。
しかし、家族の間で、「③所属と愛情の欲求」が満たされていると、友達ともほど良い距離感を保ち、話す時間と勉強する時間にけじめをつけて行動できています。
けじめをつけ、勉強することにより、成績も上がり、それが自尊感情などとも結びつき、やがて「④承認の欲求」も満たされていくのです。
「③所属と愛情の欲求」が満たされ、「④承認の欲求」が満たされていくと、「⑤自己実現の欲求」が現れてきます。
この時、初めて、本気で医学部に合格したいという自己実現の欲求が現れるのです。
この本気で医学部に合格したいという欲求こそが、医学部合格を勝ち取る大きな秘訣なのです!
まとめ
- 子どもの話に、最後まで耳を傾ける
- アドバイスは基本的に必要ないが、どうしてもアドバイスが必要な時は、「I(アイ)メッセージ」
- 欲求には五段階の階層があり、保護者は受験生の「所属と愛情の欲求」を満たすことが大切
- 子どもと一緒にご飯を食べる、話を聴く、メールのやり取りをするなど簡単なことでも「所属と愛情の欲求」には効果的
- 「所属と愛情の欲求」を満たすためには、アドバイスではなく、ただ話を聴く、そばにいることが重要