海外医学部卒業医師の日本での活躍とその意義

 

 はじめに

近年、日本の医師需給の議論において、海外医学部を卒業し日本で医師として活動する人々が増加していることが注目されています。

厚生労働省の医師需給分科会においても、日本国籍を持ちながら海外医学部を卒業した医師の数が増えていることが指摘され、国内の医師需給バランスや医師偏在対策への影響が議論されました。

また海外医学部出身の医師の増加を踏まえて医学部定員数も決めるべきとの意見もありました。

本稿では、海外医学部卒業医師が日本で活躍する意義について、具体例を交えながら考察します。

海外医学部卒業医師の現状

厚生労働省のデータによると、海外医学部を卒業し、日本の医師国家試験に合格する人数は年々増加傾向にあります。

特にハンガリーの医学部卒業者が増えており、2023年では年間38名が日本の医師国家試験に合格しています。

この背景には、国内医学部の厳しい競争や学費の高さに加え、海外医学部が比較的安価であり、英語で医学を学ぶことができる環境が整っていることがあります。

また海外医学部卒業医師の多くは、日本の臨床研修病院へマッチングし都市部で勤務する傾向があるものの、地方の病院や医師不足地域への派遣も一定数存在します。

これは海外の医療環境で育った医師が日本の地域医療に貢献する可能性を示唆しています。

海外医学部卒業医師の強み

海外医学部卒業医師が日本で活躍することの意義を考える際、その強みを以下の3つの観点から整理できます。

国際的な視野と語学力

海外の医学部では、英語を主要言語とした授業やディスカッションが行われるため、卒業生は英語を活用できる能力を持っています。日本の医学部出身者と比較すると、プレゼンテーション能力や医療制度なども含めた国際的な視点が優れていることが多く、将来的にグローバルな医療環境での活躍や日本の医療制度をより相対的に見ることが期待されます。

多様な医療システムの経験

海外で医学教育を受けた医師は、日本とは異なる医療制度や診療スタイルを学んでいます。例えば、欧米の医学教育では、患者中心のアプローチが重視され、ディスカッションや問題解決型の学習(PBL: Problem-Based Learning)が取り入れられています。このような教育を受けた医師は、日本の医療現場において、新たな診療スタイルを導入する可能性を持っています。

医療人材不足の解消

日本では、特に地方における医師不足が深刻な問題となっています。例えば、アメリカでは、医療資源の少ない地域で働くことを条件にビザの制限を緩和する制度があります。日本でも、海外医学部卒業医師を医師不足地域に配置する施策を導入すれば、地域医療の充実に貢献することができます。

海外医学部卒業医師の具体例

海外医学部卒業医師が日本で活躍する例として、以下のような事例が挙げられます。

ハンガリー医学部卒業生の日本での活躍

ハンガリーの医学部を卒業した日本人医師が、帰国後、日本の国家試験を経て医療現場で活躍しています。彼らは英語での医学教育を受けた経験を生かし、国際的な医療ネットワークを構築する役割を果たしています。また、日本の臨床研修を受けた後、医療の国際化を推進するために、海外の医療機関と連携するケースも増えています。

台湾医学部卒業者の専門医としての貢献

台湾の医学部を卒業した日本人医師が、東大の専門研修プログラムに参加し、日本のプライマリ・ケア分野で活躍するケースもあります。台湾の医療制度は日本と類似しており、高度な医療技術を学んできた卒業生が、日本の地域医療に貢献する例もあります。

中国医学部卒業生の地方病院での勤務

中国の医学部を卒業し、日本で国家試験を受けた医師が、地方病院で活躍するケースも増えています。特に、茨城県などでは、海外医学部卒業医師の受け入れが進み、地域医療の強化につながっています。

海外医学部卒業医師の課題と今後の展望

海外医学部卒業医師が日本で活躍することには多くのメリットがありますが、一方で課題も存在します。

(1) 質の担保

海外医学部卒業生が増える中で、医療の質を担保するための仕組みが求められます。現在、日本の医師国家試験に合格することで一定の水準が保証されていますが、臨床研修の充実や継続的な教育制度の整備が必要です。

(2) 日本の医療環境への適応

海外の医学部で学んだ医師は、日本の医療システムや患者対応の文化に適応する必要があります。特に、医師—患者間のコミュニケーションスタイルの違いや、日本の診療ガイドラインへの理解が求められます。

(3) 法制度とビザの問題

日本には、アメリカのように地方勤務を条件としたビザの優遇制度がありません。そのため、海外医学部卒業医師を医療過疎地域に誘導する仕組みが課題となっています。

まとめ

海外医学部卒業医師が日本で活躍することは、医療の国際化、地域医療の充実、医師不足の解消など、多くのメリットをもたらします。彼らの持つ語学力や国際的視野、多様な診療経験は、日本の医療システムに新たな価値を提供する可能性があります。

今後、彼らの能力を最大限に活かすためには、臨床研修制度の強化、地域医療への誘導策、そして質の担保を目的とした教育制度の整備が不可欠です。海外医学部卒業医師の受け入れを適切に進めることで、日本の医療はより柔軟で国際的な競争力を持つものへと進化するかも知れません。